work with Pride 2021 特別対談 星 賢人(株式会社JobRainbow 代表取締役)× 松中 権(NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表)
work with Pride 2021 特別対談 星 賢人(株式会社JobRainbow 代表取締役)× 松中 権(NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表)
work with Pride 2021特別企画として、work with Pride事務局であり、work with Pride 立ち上げのメンバーであるNPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表の松中 権と、「D&I AWARD」を創設した株式会社JobRainbow 代表取締役CEOの星 賢人さんに対談いただき、LGBTQ+や多様性と企業のあり方について話していただきました。
■星 賢人(ほし けんと)
株式会社JobRainbow 代表取締役CEO
東京大学大学院情報学環教育部修了。Forbes 30 Under 30 Asia / JAPAN 選出。孫正義育英財団1期生。板橋区男女平等参画審議会委員。御茶の水美術専門学校 学校関係者評価委員。『LGBTの就活・転職の不安が解消する本(2020/3,翔泳社)』を出版。Forbes Japan 「日本のインパクト・アントレプレナー35」。 NewYorkTimes/日経新聞/朝日新聞/日本テレビ「news zero」/フジテレビ「ホウドウキョク」/テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」など多数メディアに出演。これまでに上場企業を中心とし、500社以上のダイバーシティコンサルティングを実施。
■松中 権(まつなか ごん)
NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表 / プライドハウス東京代表 / 公益社団法人Marrriage for All Japan 結婚の自由をすべての人に 理事
1976年、金沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、電通に入社。海外研修制度で米国ニューヨークのNPO関連事業に携わった経験をもとに、2010年、NPO法人を仲間たちと設立。2016年、第7回若者力大賞「ユースリーダー賞」受賞。2017年6月末に16年間勤めた電通を退社し、二足のわらじからNPO専任代表に。LGBTQ+と社会をつなぐ場づくりを中心とした活動に加え、全国のLGBTQ+のポートレートをLeslie Keeが撮影する「OUT IN JAPAN」や、2020年を起点としたプロジェクト「プライドハウス東京」等に取り組む。
――work with Pride実行委員会の特別企画ということで、星賢人さんと松中権さんの対談が実現しました。意外なのですが、こういう形での対談は、今回が初めてだと伺っています。本日はよろしくお願いします。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
星:株式会社JobRainbow代表取締役、CEOの星賢人と申します。弊社では、「差異を彩へ。自分らしくを誇らしく」をビジョンとして掲げています。ひとりひとりの差異=違いに着目し、求人情報サイトという形で、LGBTフレンドリーな企業とLGBTの当事者がうまくマッチングできるような事業を展開しています。現在は、LGBTというところから少しずつダイバーシティへと幅を広げておりまして、LGBTだけではなくて、いろいろな人の差異を彩に変えていくことができるようなサービスを目指しています。また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という視点で、日本企業を少しずつ変えていきたいというところで、ダイバーシティに特化したアワード「D&I AWARD」を今年から実施しております。
松中:NPO法人グッド・エイジング・エールズという団体の代表をしています。弊団体は、「LGBTQ+と、いろんな人が、いっしょに楽しめる未来へ」をコンセプトに設立しました。LGBTQ+とそうではない人を分けるのではなくて、一緒に楽しみ、一緒に暮らしていくための場づくりとなるプロジェクトをいっぱい進めています。もともと2010年4月に、まだ会社勤めをしているときに、二足の草鞋で立ち上げた団体で、2017年6月末に会社を辞めて、今はグッド・エイジング・エールズだけではなく、さまざまなLGBTQ+に関する活動をしています。例えば、「公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」という同性婚(婚姻の平等)を実現させるための団体や、母校の一橋大学に安心安全な場所をつくろうという「プライドブリッジ」、「なくそう!SOGIハラ」実行委員会というLGBTQ+の法整備を目指す活動、そして、私の故郷でもある金沢で、2021年7月1日に発足したばかりの「金沢レインボープライド」では、北陸で初めてとなるプライドパレードの開催をはじめ、北陸でも暮らしやすい街をつくっていこうという活動を地元の方たちと一緒に行っています。
■LGBTから裾野を広げ、「D&I AWARD」を創設
――今年からスタートした「D&I AWARD」の取り組みについて、星さん、教えてください。
星:私自身がゲイの当事者で、大学時代にLGBTサークルの代表をやっていたときに、周りの友人たちがすごく就職活動で困っていたりとか、先輩が入社したあとに人間関係に悩まれて休職してしまったりするのを見てきて、こういった課題をなんとか解決したいなと思って、2016年1月に求人情報サイトを立ち上げました。創業から5年が経ちましたが、松中さんをはじめ先輩方のおかげで、今ではLGBTという言葉を知らない人事担当者に会うようなこともなくなりました。実際に就活生の方と話していると、面接でカミングアウトしてみたら、特別扱いされるでもなく、腫れ物に触る感じでもなく、とても自然に受け入れてくれる企業も増えているといいます。その一方で、いま私たちがサポートしている方々の中には、LGBTであって外国籍でもあるとか、障がいもあるとか、中でも特に精神疾患を抱えている方がすごく多くて、そういう方々がよくおっしゃるのは、例えば、LGBTコミュニティでは自分がゲイだと話せるけれど、障がい者のコミュニティではカミングアウトができないであるとか、あるいは、実際に会社に入るときに、LGBTという部分ではクリアできていたことが、ダブルマイノリティになった瞬間に障壁になってしまうであるとか、そういう状況についてです。
そもそもダイバーシティには、いろんな人の違いをもっと包摂できるという、インクルージョンの考え方が根底にあるはずです。かつて、創業当初、企業のダイバーシティ担当の方にお会いして、LGBTの取り組みをやりませんか、と聞いたら、うちは女性活躍だけしかやりませんと言い切られて、衝撃を受けたことがありました。そのときからの問題意識もあって、では、これから取り組むべきは何なのか。そう考えたときに、弊社であれば、LGBTだけではなくて、そういった複合的なマイノリティの方にとっても働きやすい環境がつくることができたら、結果として、グレーゾーンの方であったり、いろいろな方々が働きやすくなるのではないか。そうして日本のD&Iを見たときに、ダイバーシティを掲げていても、女性活躍がメインであったり、障がい者雇用がメインであったりで、そういう状況に対して、横串を通すようなものがあれば、それはそれで、企業がD&Iを目指すときのマイルストーンになるのではないか。そんな思いがあって、D&I AWARDを立ち上げました。
D&I AWARDには二つ目的があって、D&Iの定義や価値観を、日本でアップデートしていくこと。もう一つは、D&Iにしっかりと取り組んでいる企業や担当者の方に、スポットライトを当てること。日本では、D&I担当やCSR担当の方の会社の中での立場が弱く、発言力がなかったり、予算もしっかり割り当てられていないのが現状です。一方、海外では、役員やエグゼクティブボードの中に必ずD&I担当のメンバーがいて、しっかりとしたチームや大きな予算があり、日本とは対照的です。D&Iに取り組んでいる企業にスポットライトが当たれば、そこに適性のある優秀な人材も入ってきますし、そうしたときに、会社に対して、その業績をきちんと認めてもらえる指標があれば、日本におけるD&Iの状況も変わっていくのではないかと考えました。ちなみに、私たちは、D&Iを考えるにあたって、「LGBT」「ジェンダー」「障がい」「多文化共生」「育児・介護」の5つに注目し、ダイバーシティの要素としています。
■wwP設立の経緯と「PRIDE指標」の歩み
――work with Pride(wwP)の「PRIDE指標」について、松中さん、教えてください。
松中:まず、wwPの設立の経緯からお話しします。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」という国際人権NGOのボリス・ディトリッヒさんというLGBTQの権利プログラムのグローバルでのアドボカシーディレクターがいて、オランダの元国会議員で、ゲイ当事者でもあり、オランダで同性婚を実現させた功労者の一人でもあるのですが、その方と、もう一人、IBMのトニー・テニセラさんというグローバルでLGBTQを担当している方と、このお二人が、LGBTQ団体のグローバルなカンファレンスでお会いして、そのときに日本でもLGBTQについて何か始めていったほうがいいのでは、という話になって、その後、それぞれの東京のオフィスに提案したんです。HRW側は土井香苗さんというHRW日本代表がいて、IBM側には日本IBM人事部の梅田恵さん(現EY Japan)がいて、お二人が連絡を取り合って相談しました。けれど当時、日本IBMには表に出られるカミングアウトした当事者社員はいなくて、またHRWはスタッフの人員が少なくて、さて、どうやって進めればいいのかというタイミングでした。その頃、私はちょうど社内でカミングアウトし、グッド・エイジング・エールズを立ち上げて、アルファ ロメオのティツィアナ・アランプレセさんと一緒にLGBTQのメッセージ発信を始めたところでした。私の周りには、職場でカミングアウトしている人もいれば、クローゼットの人もいたのですが、どこの会社にもLGBTQ当事者の従業員はいるわけで、そういう人たちに向けて何かできないだろうか。そんなことを考えていたところ、土井さん、梅田さんとつながることになり、2012年にwwPがスタートしました。初年度は、日本IBMの会場を借り、まだ「LGBT」という言葉もあまり知られてなくて、女性や障がい者の担当の方をお呼びしてお話しをしていただきました。
電通ダイバーシティ・ラボが2012年から「LGBT調査」を始めていて、私も電通に勤めていて、その調査の結果をこの初年度のwwPで発表しました。そうしたら、自分の周りにはLGBTの方はいないと思っていたのに実際にはいるんだということが分かって、そこにいた担当者の方たちがみなさんびっくりされたんです。当事者がそんなにいて、そんなに悩んでいることがあるんだったら、これは毎年きちんと開催したほうがいいという話になり、翌年はソニーが会場を貸してくれ、次の年はパナソニック、その後、リクルート、第一生命に会場を移して5年間、wwPを毎年実施しました。そうしたなかで、アメリカのLGBTQ+人権NGOヒューマン・ライツ・キャンペーンや、オーストラリアのACONという団体などが、企業のLGBTQに関するインデックス(指標)を作っていたのは以前から知っていて、wwPを立ち上げるときから、将来、そういった評価指標が作れたらいいねという話はしていました。wwPの活動を通して、いろいろなつながりもできてきていたので、そろそろということで、実行委員会の方々や、参画を希望する企業やNPOを巻き込んで、2016年にボトムアップで作ったのが「PRIDE指標」です。
目的の一つは、企業が本当に実施できることを可視化していくこと。PRIDE指標の初年度は、項目だけが決まっていて、そこに自分たちがやっていることを記入するという方式でした。翌年からそれはやめて、取り組みの範囲やレベルをより具体的に知ることができるように、各指標内の評価項目を細分化しました。さらに、こんな取り組みもありますよといった例示もしていて、なので、賞を獲るためにというよりは、これを見れば企業の中でできることが分かるように策定しています。そうすることで、例えば、人事やダイバーシティ担当の方が社内で施策を通していこうとするときに、今年こういう成果がありました、でもまだこれが残っています、うちの会社では今後これをやっていかないといけないです、といったように、社内でLGBTQ施策を進めていく際の武器として使えるわけです。それに加えて、人事やダイバーシティ、CSR担当の方は、褒められる機会がないんです。なので、そういう人たちが褒められる場をつくれたらいいなという思いもありました。
それから、企業の多くから、点数をつけるのはやめてほしいと要望されました。アメリカのヒューマン・ライツ・キャンペーンなどは項目ごとに点数をつけて公表しているのですが、日本でそれをやってしまうと、日本の企業はとても嫌がるので点数化はやめて、せめてということで、ゴールド、シルバー、ブロンズの3つの評価を設けました。評価基準は、時代状況や達成度などを勘案して、年を追うごとに少しずつ厳しくしています。ここ最近では、中小企業や地方の企業などの応募も少しずつ増えてきています。日本の企業の多くは中小企業で、そういう意味では、中小企業への広がりはとても重要で、今後ますますwwPやPRIDE指標の存在意義や必要性が高まっていくと思っています。それから、2021年度は、「レインボー」認定を新設しました。これは、自社単独の取り組みでできる範囲を超えて、他のプレイヤーと力を合わせながら、LGBTQの人々が自分らしく働ける職場・社会づくりの実現に中長期的にコミットメントする企業を後押しするもので、国・自治体・学術機関・NPO/NGOなどとの、セクターを超えた協働を推進する企業を評価するものです。
星:実は大学3年生くらいのときに、おそらくパナソニックが会場だったと思うのですが、wwPに参加したことがあるんです。学生の頃、マイクロソフトでインターンを少しだけやっていたんですが、社内にLGBTサークルがあって、そのときに仲良くしてくださった社員の方にwwPのことを教えてもらって、社会科見学みたいな気持ちで参加しました。
会場では、とにかくいろいろな人に声をかけまくっていたのですが、私のような若輩の学生ごときに、ほとんどの方がやさしく接してくださって感激していました。そのとき、たまたま私の後ろに座っていたのが電通の方で、その方から電通ダイバーシティ・ラボの室長さんを紹介していただいて、そこに松中さんも一緒にいらして、それが初対面でした。覚えていますか?
松中:もちろん、覚えていますよ。
星:そのときに、今こういうことをやりたいと考えていてと話したら、松中さんがとてもやさしくアドバイスをしてくださって。こういうのは会社を巻き込んだほうがいいよ、きちんと継続できる仕組みを考えたほうがいいよと、いろいろ教えてくれたんです。
■「PRIDE指標」と「D&I AWARD」の役割と課題
松中:D&I AWARD、すごくいいなと思っていて。PRIDE指標はPRIDE指標の役割があって、これからも、このLGBTQという視点をきちんと立てていくんだけれど、今感じているのは、結局、すべて地続きで、それに気づくことがすごく重要で。つまり、LGBTQという切り口だと見えてこない「障がい」など他のマイノリティが同じアワードの中に入ることによって、気づきが増えていく。企業としても、D&I、最近ではE(Equity=公正)も含めDE&Iになるのかもしれませんが、それを大きなトピックにしていくことが重要で、そのために、例えば、障がい者の団体であるとか、他のマイノリティ団体などと何かで協働するとか、一緒にイベントをするとか、そうやってどんどん輪を広げていって、関係性を構築していくことが大事だと思っています。
星:日本だと、女性活躍と障がい者雇用については法律もあるんで、取り組んでいる企業も多いですけど、それだけしかやっていなかった場合に、D&I AWARDに照らしてみると、LGBTは全然できていないんだ、やらなければ、となっていってもらいたいんです。D&I AWARDでは、やり方とかを詳しく書いているわけではないので、PRIDE指標と併用してもらうのもいいのかなと思っています。
松中:PRIDE指標に今年度新設した「レインボー」認定では、「婚姻の平等を実現する法制度の実現(Business for Marriage Equality)」と「LGBT平等法の実現(ビジネスによるLGBT平等サポート宣言/Business Support for LGBT Equality in Japan)」のどちらかに少なくとも一つ以上、公に賛同を表明していることを条件にしています。それぞれ別の組織が立ち上げているイニシアティブですが、PRIDE指標と絡めることによって、ソーシャルフィールドでの横の連携ができ、社会を変えていく力になっていくと思っています。
今年、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催されましたが、オリンピックではLGBTQ関連の報道もすごくされていました。でも、パラリンピックになった途端に、LGBTQの話題もグッと減りました。プライドハウス東京への取材も一気に減ってしまって、それって一体どういうことなんだろうなと考えてみたときに、パラリンピックは障がいの有無の壁を超えていくことが大きなテーマですが、そのテーマがドンと入ってしまうと、LGBTQのトピックはどうしても埋没してしまうのかなって感じて。一つのテーマでやっていくこともすごく大事ですけど、ここで見えなくなってしまっているものというのは、多層性であったり、交差性であったりで、こういういくつかのフィールドにわたる取り組みがあると、そういう部分を気づかせてくれるきっかけになるのかなと思いました。
星:さきほど、日本では点数化が敬遠されるというお話がありましたが、D&I AWARDでは、100点満点という形で明確に点数を出す部分と、その点数を基準に「ビギナー」「スタンダード」「アドバンス」「ベストワークプレイス」の4つの認定に分けて評価をしています。
ただ、振り返って思うのは、日本の企業風土にもう少しローカライズした見せ方や方法を選ぶべきだったのかなという反省点もあります。例えば、認定はもらいたいけど詳細な点数や評価内容は出さないでほしいとか、応募しようと思ったけど点数があまり出そうにないので、もう少し頑張って点数が出るようになったら参加します、といった企業の声もありました。そのあたりについては、PRIDE指標はものすごく丁寧につくっていらっしゃるなと思います。
松中:それはやはり、企業担当者の方々が中に入って、一緒につくった指標ですからね。とはいえ、最後の評価を判断するところは、企業の人が評価してしまうと客観性や公正性が担保できなくなるので、事務局で評価しています。また、「ベストプラクティス」という欄も設けていて、そこに企業内の新たな取り組みや企画などを記入していただき、その中から「ベストプラクティス賞」を選定しています。それによって、企業の枠を越えて、優れたアイディアの共有を行っています。
それから、今ものすごく感じているのが、社内の風土についてです。制度や仕組みは気合を入れて向き合えばつくれてしまうものですが、風土を変えていくのはなかなか難しい。また、指標によって社内の風土を数値化して評価するのもなかなか難しい。例えば、学生さんがPRIDE指標を見て、ゴールドの企業だからと入社してみたものの、実際は社内風土的に全然インクルーシブではなかったという話も聞きます。私が就活し、入社した当時は、隠していて当たり前、LGBTQへの対応がないのが当たり前だったので、そういう社内風土であってもそれが普通だと思うことができたけれど、今はなまじLGBTQ対応を掲げている企業も多く、そのつもりで入ったら社内風土は旧態依然としていてみたいな、制度と風土のギャップみたいなものをどうやって埋めていくのかは課題だと思っています。ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)と連携したときに、HRCでさえも同じようなことを言っていました。
星:同じことを感じていました。結局、「やっていること/やっていないこと」は事実なので点数もつけやすいですし、公平性も高くはなります。けれど、本質的なところで、点数が高い会社がLGBTQ当事者やマイノリティにとって働きやすいかどうかというのはまた別の話です。そのときに同時に思うのが、大きな企業は制度をつくって変えていこうというモチベーションがあるわけですが、そもそも中小企業やスタートアップ企業は、まだまだ福利厚生がしっかりしていないところもあって、例えば、結婚しても祝い金も出ない休みも取れないような会社で、同性パートナーシップがないからといって、じゃあ入社しませんというのは、本質的ではないと思うんです。会社の規模感であったり、いくつかのレイヤーを入れたほうがいいと考えています。なので、D&I AWARDでは、「大企業」「中小企業」「地方企業」「スタートアップ企業」の4つの部門に分けさせてもらっています。実は、地方の中小零細企業で、経営者の方がとても理解のある場合もあって、そういう会社こそ取り上げられてほしいという思いもあります。
松中:大きな企業だと、LGBTQ担当まではいなくても、D&I担当は当たり前になってきていて、けれど中小企業だと、一人で総務から人事まで担当している人がいたりして、社内におけるD&Iを担うポジションの重要度をもっと高めていくことがすごく大事だと思うんです。「筑波大学エクステンションプログラム」というのがあって、その中の「インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ」という講座に、個人的にプログラム構築メンバーの一人として携わっていて、このコースでは、D&I推進のリーダーとなる人材の育成を目標としています。もう一ついま試みようとしているのは、「チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)」という役職を、日本でも増やしていくことです。経団連にも協力してもらえないかと考えています。ポジションができると、その仕事の範疇も広がるし、発言力も高くなります。その際に、企業の中で、D&IやDE&I担当の発言力を高めていくことはもちろん大切なんですが、コミュニティやソーシャルセクターがそういうことをきちんと要請していくことも大事だと思っています。
星:以前、セールスフォースのグローバルのチーフ・イクオリティ・オフィサーとお会いして、人種的には黒人で、かつトランスジェンダーのお子さんがいる方だったのですが、自身のライフヒストリーをみなさんに伝えつつ、日本をはじめいろいろな地域のコミュニティをサポートしていて、やはりその人がいるから、より自由に動けたり、社内でイクオリティの活動が評価されるわけです。セールスフォースの場合、「1-1-1モデル」ということで、就業時間の1%を社会貢献活動に充てることができるそうなのですが、結局、日本の企業の場合、社内でのダイバーシティのコミュニティ活動は自発的にやるもので、仕事の評価や報酬にはつながらないことがほとんどで、例えば私の知り合いも、企業の中でダイバーシティの活動をがんばっているんですけど、その時間は勤務時間には入らないですし、そういう活動はあえて評価には入れないという会社の方針もあって、モチベーションを保つのが難しいと言っていました。そういう活動に対して、エグゼクティブがきちんとスポンサーとなって、モチベーション設計もして、会社のカルチャーを変えていくことはすごく大事だと思っています。
松中:D&Iに関してどんな提案をし、どんなアクションをしたのかなどを、チーフクラスだけではなく、マネジメントの評価の中にきちんと入れてほしいですね。
星:松中さんは、いろんなプロジェクトのコンセプトをつくるのがすごく上手だなといつも感心していて、根っこには社会をアップデートしていこうという熱い思いがありつつ、その巻き込み方がすごくて、みんなが喜ぶように「三方良し」の形をつくっている。例えば、PRIDE指標でいえば、今回「レインボー」認定に同性婚やLGBTQ平等法を絡めていて、上手いなあと思う。これからチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)を世の中に広げていくために、どうやって企業を説得していくのか、すごく興味があります。
松中:組織をいじることになるし、お金のかかることだし、可視化することがすごく大事だから、まずは実際にそのポジションにある人たちをお呼びして、その人たちの話を聞いていく。CDOを導入していくにあたっての障壁であるとか、何が大変だったかといったことを聞いていく。その上で、そのポジションが必要だということを広く伝えていく。そのときに、企業がそれをやらなければと思うようなプレッシャーとして、例えば、経団連のような、日本の企業にとっては一つのスイッチになるような団体に働きかけていく。すでに経団連には、PRIDE指標を立ち上げた翌年、2017年のwwPから後援をもらっていますし、会場も経団連会館を使わせてもらっていて、関係はつくれています。
星:そういったプレッシャーになりうる組織とかを巻き込んでいくというのは重要ですよね。
松中:一つの企業の中で、何かを起こしていくのが大変なときには、外部のてこを利用するわけです。
星:松中さんの「巻き込み力」は、本当にすごいですね。
(次ページへつづく)