企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.1

対談/座談会・インタビュー

企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.1

企業でDEI(Diversity,Equity&Inclusion)を推進されているご担当の皆さまに、LGBTQに関する取り組みを進める中で、抱える課題や、悩みなど、日々感じ、考えていることを話していただいた覆面座談会です。今回の座談会は社員数1万人以上の日本企業でLGBTQに関する取り組み推進されている皆さまにオンラインでお集まりいただき、開催しました。

<座談会参加者>
Aさん:担当歴 4年/電機業界/日本企業(社員数:1万人以上)
Bさん:担当歴 5年/情報通信業界/日本企業(社員数:1万人以上)
Cさん:担当歴 半年/金融業界/日本企業(社員数:1万人以上)
Dさん:担当歴 4年/運輸業界/日本企業(社員数:1万人以上)
モデレーター:担当歴:半年/運輸業界/日本企業(社員数:1万人以上)


モデレーター:皆さまお集まりいただき、ありがとうございます。これより覆面座談会Vol1を開催いたします。

 

今回の座談会は社員数1万人以上の日本企業のLGBTQに関する取り組みを推進されている人事・ダーバーシティ推進担当の皆さまにお集まりいただきました。それでは、早速ではございますが、まず今回ご出席いただきました皆様より、企業でのLGBTQの取り組みと、簡単な自己紹介を順番にお願いします。

 

Aさん:弊社では、LGBTQに関しては2016年から制度をつくり、取り組みを進めていますが、私はD&Iを担当して今年で4年目になります。制度も作り、社内でネットワーキングも行っていますが、制度はあっても風土が整っていないのではないかと、今課題に感じています。本日はよろしくお願いします。

 

Bさん:弊社グループ全体としては2016年からLGBTQの取り組みを始め、私はD&Iを担当し5年目になります。取り組みを始めた時期としては少し遅いくらいかもしれないなと思っていますが、いろんな悩みとか、我々の観点からの話をできればと思っています。本日はよろしくお願いします。

 

Cさん:弊社は、LGBTQの取り組みは2015年の後半からスタートし、私は今年D&I部門に異動し、担当となりました。皆さんと比べるとまだ知識も経験も不足している状況ですが、弊社も様々な職種があり、多くの人が働いている環境ですので、意思統一を図る難しさとか、当事者の声を聞く難しさとか、日々悩みながら活動しています。本日はよろしくお願いします。

 

Dさん:弊社は2017年度から本格的にLGBTQの取り組みを始め、私は間もなくダイバーシティーを担当して4年となります。同性パートナー制度なども導入されていた他社へ事前に訪問し、参考にさせていただき導入しました。

制度は、2018年度から導入しておりますが、カミングアウトしている社員も少ないですし、やはり風土の定着に少し問題、課題感を感じています。この場で、皆さんと情報共有ができたらと考えておりますので、本日はよろしくお願いいたします。

 

モデレーター:皆さま、ありがとうございました。私の自己紹介を簡単にさせていただくと、Dさんと同じ会社で今年異動でD&Iの推進担当となり、担当歴は半年ほどです。まだまだ経験は少ない状況ですが、皆さまからお話も伺い、今後の取り組みに活かしていければと思っています。本日はよろしくお願いいたします。

 


モデレーター:それでは、早速お伺いしますが、各社様、社員数が1万人以上と全国的な規模で部門を持っておられ、かつさまざまな職種が社内、あるいはグループ会社も含めて持っていらっしゃる中で、意思統一という部分では、相当なご苦労があるのではないかと思います。そこで、各社様へそれぞれLGBTQへの取り組みを始める最初の一歩の部分で、一番ご苦労されたところをお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

 

Aさん: 弊社は、取り組みは、2016年にスタートしましたが、最初当事者からパートナー制度を作ってほしいという声があり、「当事者から要望があるっていうことは反映しないといけない」と、人事部長を説得し、世間の波も変わってきていると、社内を動かして制度に落とし込みました。その時は正門の前で反対運動が起こったり、ビラを撒かれたり、苦情の電話が社外からかかってきて、「そんなことしたらものが売れなくなる」という意見があったりしたようです。

しかし、そこはきっちり方針として人事制度を作ると、担当者と人事部長が決心し、社内で導入が進みました。

 

モデレーター:そうなんですね。ちなみにBさんの会社の場合、とても各社で事業が分割されていて、グループ全体でひとつのD&Iの取り組みを推進するとなると、各社の経営陣のご意向も、微妙にスタンスが違ったりすることもあるかと思いますが、そのあたりいかがでしょうか。

 

Bさん:弊社が取り組みを始めた2016年当時、日本国内からグローバル市場への拡大を加速化していく時期で、取り組みを推進することは必然的だったと思います。こうした中で、社長が自らのメッセージで社員全員に、多様性をしっかりと認識して、自覚して当たり前と思うことが大事だというメッセージを改めて流しました。そこから取り組みを始めていこうという宣言をしたことが非常に大きかったのかなと思います。

 

ただ、この議論を深めていく中で悩みも出てくるのですが、我々の会社はどちらかというと「そうはいっても自分の近くには当事者の方はいないですよね」、と思っている方が多いのではないかと感じており、知識を得て学ぶまでは非常に速いが、そこから先として、少し細かい悩みもたくさん出てくるところではあります。ただ、取り組みを推進するにあたり、最初に会社として宣言にしたというのが大きかったなと思います。

 

Cさん:お話を伺って、私たちもBさんの会社と似ていると思います。私どもも社長が、LGBTQ単独というよりもダイバーシティという大きな枠組みで、その中にLGBTQも当然入っていると、宣言したので、社内の制度をつくる時に、受取人に同性パートナーの方を指定するとか、そういった制度を変えることは、実際どうできるのかを、みんなで検討しながらしっかり作り上げていったので、社内から大きな反発は特になく、導入できたというのが正直なところですね。

 

ただ社員を見ていると取り組みを仕事としてやっているようなところがあって、自分の側にも当事者はいるということを、どこまで理解して、普段の言動行動に移せているかという点は、まだわからないところもあります。一部当事者に向けて普段の何気ない会話の中で、傷つけてしまうような一言を言ってしまっていたことが、まだまだあるといった話を聞いたりします。

 

モデレーター:ありがとうございます。弊社の場合は、以前は男性社員ばかりの会社で、そこからまず女性活躍、そしてLGBTQの取り組みという流れがあったので、さまざまなご苦労もあったかと思うのですが、Dさんいかがでしょうか。

 

Dさん:弊社は、オリンピックが東京に来ることになって、より積極的に取り組む契機となって、さまざまな制度を作ってきました。ですので、社内での反対はほとんどなく、今むしろ身近なところで本当に当事者の方がいるという前提で、日々の行動ができているかというところについて、一番大きな課題感を感じていて、現場レベルになった時に、その職場の社員や管理者がどこまで自分の中で落とし込めているかということに、非常に課題を感じているというのが現状です。

 

モデレーター:各社のお話を伺っていますと、最初はやはりトップの方のご理解がまずあって、会社の将来を見た上でも、LGBTQに対する制度作り含めて取り組みが必要だというご認識のもと推進されていると思いますが、実際に制度を使われている方は、想定されていた規模よりも、まだ少ないという認識ですか?

 

Bさん:弊社は制度を活用できているかどうか自体も把握しないことにしていまして、パートナーと言われる方は、法定婚、事実婚、そして同性パートナーを含めて「パートナー」という定義にしていて、それぞれの枠組を分けていません。どうしても確認が必要な場合のみ、所定の様式を提出してくださいということがありますが、提出いただく事情は、ほとんど今のところないと考えています。

 

Dさん:今の件でBさんにご質問ですが、弊社もネットワーク環境について、大幅にリニューアルを予定しており、その時にLGBTQ、特にトランスジェンダーの方の配慮情報の登録を行おうと思い、社内で動いています。

 

数年前、当事者ネットワーク交流会を人事部主催でやったときに、カミングアウトの妨げとして人事に情報を知られてしまう。特に身近な職場の上司に知られるのが嫌だという話があり、検討したのですが、各種申請をするときには、どうしても上司の承認が必要っていう立て付けになっていて、それをスキップしたり、登録しないってことができないんですね。いろいろと検討しましたが、やはりどうしても管理者には伝えないと制度が使えないということになったのですが、Bさんの会社で特に把握しなくても良いというのは、具体的に、例えば社宅に入りたい場合、それが同性であっても、申請の時に同性でもパートナーとして認めているので、入れるということでしょうか。それともカミングアウトをしないと、やはり入れないということなのでしょうか。

 

Bさん:狭義のカミングアウトはする必要が無い環境にしています。広義に捉えると、パートナー登録というのを事前にしていただく必要があります。これは法定婚の方も事実婚の方も、同性パートナーの方も全く同じ条件で、システム上にその相手方の名前を入れていくことが必要です。

このパートナー登録というものがされているか、されていないかというのを条件として、その事由や内容を条件とはしていません。

 

ただこの仕組みを作ったときに、当事者の方から、当事者からするとパートナー登録をさせること自体が制度を使ったり、安心感を持つための障壁なのだというご意見もいただきました。よって、この形がいいのか悪いのか、一番いい形というのはどういうものなのかというのは、少し解がないところです。

 

Dさん:登録自体は、社員が自分でそのシステム上で登録すればいいので、周りの人に登録したよと言う必要がないということなんですね。ありがとうございます。

 

モデレーター:ご登録いただいた情報は、福利厚生等を扱う実際に顔を合わせたこともない第三者が、その事務手続きを行う場合に確認ができるということですか?

 

Bさん:そうですね。その業務に携わる者だけがアクセス権限を持っているという仕組みになっています。

そのシステムと実際に福利厚生で活用するシステムというのは、また別になっていて、情報は流通していません。条件が流通しているというイメージですね。

 

モデレーター:かなり秘匿性が高いシステムを組んでいるけれども、登録自体にストレスがかかっている方が中にはいらっしゃるということですね。そういったパートナー制度を含めて、諸制度の申請に関するストレスについて、話が上がってきていますか?Cさんいかがでしょうか。

 

Cさん:先程の社宅の申請の話でいうと、弊社では、同性パートナーの方と社宅に入りたいという場合には、通常ルートではなくて、LGBTQ相談窓口に連絡をもらうことにしています。

 

完全に別ルートで、申請とか承認の手続きをする形になっていて上司の承認も不要ですし、人事部の限られた人間だけが、その事実を知って手配をし、必要最低限の人しか知ることのできない仕組みになっています。ですが、当事者の方からお話を伺う機会があったときに、制度がなかなか利用されないという話をしましたが、やっぱりどこかで知られてしまうのではないか、という恐怖心があるという話を聞きました。

 

いくら本社部門の人が「知られることはないですよ」とお話をしても、申請の時はよくても、この社宅への入居OKです、という許可通知が上司経由で返ってきてしまうんではないかと考えられたりして、なかなか使ってもらえないんじゃないか、と示唆をいただいたりもしました。なので、情報発信をしっかりしていかなきゃいけないというのが、やはり課題と感じています。

 

Aさん:Bさんの会社の上司の承認なしで、申請ができるというのがすごいですね。弊社はパートナーとして登録するときに上司の承認が必要で、上司にカミングアウトしなければならないというハードルがあるので、登録できないという意見をいただいています。

 

なぜ承認を外せないかというと、例えば同性の友だち同士でパートナーに登録して、社宅に住みたいといったことが起こる可能性があるのではないかという推測もあり、承認制度があります。実際にはそんなこと発生してないのですが、そういうことが発生した場合に、どう対処されるのか、Bさんにお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。

 

Bさん:そうですね。今、お話いただいたような事例はないのですが、仮の話をさせていただきますと、我々の会社にもいわゆる集合住宅的な社宅があり、もちろん借り上げもありますが、物件は会社から指定していくんですね。もしかすると、なんでこの二人が世帯用の社宅に住んでいるんだろうかとか、疑義を持たれる方が存在するかもしれないことはおっしゃる通りあると思います。

 

私の近くには当事者はいないと思ってらっしゃる方は、実際にもし当事者の方がいらっしゃるとびっくりしてしまう。寮長さんもいらっしゃいますが、何かおかしいんじゃないのかというような疑義を持たれるかもしれません。もしかすると、そうした課題が出た時というのは当事者自身のご意向等々把握していく必要はありますが、おっしゃっていただいた方との対話が必要だと思っています。どこに誰が住んでいるという条件は、一人一人、個別には知らないはずなので、疑義を持つこと自体が文化としておかしくなるんですよね。

 

ご家族用の社宅だとご家族が住んでいるとしか見えないのに、「なんであの二人が住んでいるんだ」と言う権利は、誰にもありません。こうしたことを双方に確認して誤解を解いていく必要があると思います。ただそこで無用なカミングアウトや、アウティングにならないようにするのは、非常に難儀するなという気がしました。

 

Bさん:先ほどのパートナー登録について補足しておくと、上司に知られずに登録ができるということは、確かに非常に良さそうに聞こえると思うのですが、実際に休暇制度だとかを活用するときには、上司の許可か必要です。

 

上司がシステム上の承認ボタンを押す方なので、パートナー登録されている方だから僕は承認するべきだ、ということは、頭では理解しているものの、例えば「あれ結婚していたんだっけ?俺知らないな」なんて自然に発言されてしまう方なんかがいらっしゃるのではないかなと。そうすると、上司がずっと同じ人だとは限らないので、ある上司の時にパートナー登録をし、上司が変わったときに聞かれてしまうことがあるかもしれない。何げなく聞かれた一言が、自分がカミングアウトを強制されているのではないかと思ってしまう。そういうこともあるかも知れません。

 

(次ページへつづく)

 

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