企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.1
企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.1
モデレーター:やはり前半のお話を伺っていると、今回ご参加の企業様に共通した横断的な悩みを、皆さん持ってらっしゃることがわかりましたが、これからは、当事者の方に対してという視点の次に、我々人事担当者の視点で、ご質問させていただければと思います。
各企業様も2、3年の周期で、人事異動をされているかと思いますが、実際私はD&Iの推進担当になって1年足らずですが、私の場合は、社内のLGBTQの取り組みを進めてきた先輩が上司であり、例えば制度1つとっても、制度ができた経緯や制度ができるまでの意見交換などの過程含めて、直接学ぶことができました。
各企業様も2、3年の周期で、人事異動をされる中で、そういった個別のヒストリーやエピソードなど知識経験をどう社内に引き継いでいくか、また社内外のコネクションも、どう次世代につないでいくかが課題か思っており、お話を伺えればと思っています。私と同じ配属され1年足らずであるCさんはいかがでしょうか。
Cさん:まさにモデレーターさんとはほぼ同じで私も今年異動して来ましたが、上司は昨年もこの部署にいたので、わからないことがあれば聞けるという環境にはあります。ただその上司も去年異動で担当になり、その前の担当はもう近くにいない状況なので、確かにこれまでの歴史や背景などが身近では確認できない状況です。
ただ本件に関わらず、引き継ぎについては、お恥ずかしい話、体制があまり整っておらず、ここに資料があるから必要に応じて見といてね、となることが多いですね。進めながら、こういう時ってどうだったかなと過去を振り返る時に資料を自分で探し、それでも分からなければ隣にいる上司に聞いて、という形で進めています。引き継ぎの課題があるのはもちろんですが、私がこの後異動になって後任が来た時に、うまく引き継いでいけるかはちょっと悩みがあります。
モデレーター:ありがとうございます。Aさんはいかがでしょうか。
Aさん:私たちもその引き継ぎがなかなかうまくできていなくて、D&I担当者が3年から5年おきに変わっているので、以前は女性活躍をやっていたのに、あれどうなったといったことを言われたり、その時の担当者の感性で進めるところもあって、社内からは何か一貫性がないと言ったようなことを言われたことがありました。
LGBTQに関することについては、社内からの圧力はないですが、グローバルな地域のことを配慮して推進しにくい時期もありましたが、ここ2年ぐらいは全くなくなり、どんどん推進するフェーズに変わったので良かったです。外圧があると辛いですね。
モデレーター:会社として外圧にどういうスタンスを取るか、結構悩みもあったということですね。
Aさん:製品をグローバルに売っているので、ある国では、その製品が売れなくなると言われると、あまり推進できないといった話が出てきたりします。製品が売れなくなると、事業に影響が出るっていうところが辛いところです。
モデレーター:営業部門の方から人事部門に話がくるということですよね。
Aさん:そうですね。Dさんの会社はそういう事業への影響はないですか。
Dさん:弊社では、むしろ社員に対してフレンドリーになって、では弊社の施設やサービスを使ってくださっているお客様に対してはフレンドリーになれているのかという課題はあるかなと思っています。
具体的な話だと、弊社のサービスを利用いただく際に性別の選択を求めるものがあり、社員からもなぜ変えられないのですかと意見が上がってきたり、お客様からもご意見いただくことがあります。またトイレも今多目的トイレが増えていますが、どの施設もキレイで、使いやすいものを全施設に作ることができるかというと、古い施設もあり、従業員の女性用の設備を作るのさえ四苦八苦みたいな感じになっていたりしているところでは、なかなかできなかったりしています。
また弊社で、同性パートナー制度を導入したときに、リリース発表するかどうか迷ったのですが、お客様に対するサービス等について、取り組みがまだ全てできていない状況もあったため、断念しました。
家族プログラムを同性パートナーまで広げられた企業さんもいらっしゃいますが、グループ全社で変えないとできないこともあり、なかなか変えられないこともあることがジレンマに感じています。
モデレーター:Bさんはいかがでしょうか。
Bさん:会社のスタンスを示すという観点では、弊社では社外に情報発信することで、社員やその家族が情報に触れ、会社はこういうスタンスになっているのか、と認識していただくことを狙ったりすることはあります。
社内では、なかなか取り組みの浸透度が難しくなってくることもありますが、対外的な観点で、家でニュースを見たり、もしくはご家族から、会社はこんな取り組みしているんだねと話ができる効果を狙ったりすることも時々ありますね。
それが主目的ではないのですが、効果を狙う1つの方策として、それが効いたりすることがあります。
また、先程の思いを引き継いでいくというお話については、非常に難しいお話だなと思っています。
私からLGBTQの取り組みに関しての話をさせていただきますと、私が着任し取り組んだ頃がまさに取り組みの産声を上げた頃でしたので、誰も聞く人がおらず、一から実施してきたという状況でした。今5年目を迎えていくと、私しか知らない話や、これまでの経緯というのをいかにして引き継いでいくかという逆の課題が発生しているのも事実です。
4月から新メンバーを加えた体制になった中で、私では5年も経つと自分の判断軸ができてくるんですが、新メンバーから「なぜですか。どうして私の会社にはこういう取り組みがないのでしょうか」とまっさらに聞いてもらえる。疑問をぶつけてくれるのは非常に新鮮で、こうした逆の観点というのが、実は必要なんだなと思っています。案件ごとの経緯は必要ですが、新しい息吹で「なんで?なんで?」っていうのを繰り返すことが非常に大事だなと最近改めて思ったりしています。
モデレーター:そうですね。確かに担当者が変わることによって、ある意味固定化されていた概念に対して刺激を与えるというところもあるかなと思います。私も担当レベルで、そういうことができるようになれたらと思いました。
Cさんは、ご担当になられってご自身で感じたところや、新たに取り組まれたことなどありましたか?
Cさん:そうですね。私は今年異動となり担当になりましたが、その前は営業推進関連の仕事をしていて、ちょっと語弊があるかもしれませんが、ダイバーシティって言葉はもちろん知っていましたしLGBTQのことも知っていましたが、以前はあまり深く考えたことがありませんでした。
着任して、いわゆるマイノリティーといわれる方々に対して、会社としてどうあるべきなのかなっていうのは、悩み考えたことがありました。
やらなきゃいけないのは、そのマイノリティーの方々にたくさんスポットライトを当てて、持ち上げるっていうことではなくて、マイノリティー、マジョリティー関係なく、みんなが平等に権利を持っているっていう状態が理想の形なのかなっていうのを最近考えるようになりました。そう捉えたときに、過度に持ち上げてないかなど、意識するようになりました。
女性活躍を例にすると、女性をどんどん活躍させて昇進だと盛り上げるのも必要なのかもしれないですが、かたや男性の新卒からこの会社に入って、頑張っていた人をないがしろにするのはいけないと思います。繰り返しになりますが、マイノリティーとかマジョリティーとか関係なくみんなが平等に権利を持っている状態が理想の状態なのかなと思って、いろいろ物事を捉え考えています。まだ何かを変えたといった実績はないのですが、担当として取り組むにあたり、これは平等ではなく優遇ではないか?と、葛藤というか、着任当時はすごく悩みを持ちましたね。
モデレーター:それでは、お時間もだいぶ経過してまいりましたので、最後の質問をお伺いできればと思います。
皆さん実際取り組みを進められて、ダイバーシティ担当をやってきてよかったなと思ったことや、達成感を感じたこと、仕事に対してのモチベーション向上にすごくつながったなといったエピソードがございましたら、お話いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
Aさん:私はLGBTQに関して2つあります。
1つめは去年初めて全社でアンケートをとり、初めてのアンケートだったので、「こんなアンケートをとるな」など、言われるのではないかとか思っていたのですが、任意で性的指向・性自認を聞きましたが、はっきりと答えてくださる方も多くいらっしゃって、アンケート上では、以前に比べてだいぶオープンになってきているな、とても変わってきたなと感じることができたことが、とてもうれしかったです。自由記述もたくさんあったのですが、こういうアンケートをしてもらえてすごくうれしいという意見もたくさんいただいて、やってよかったなと思い、求められていたんだと気づいたところです。
2つめは社内でネットワーキングを実施し、当事者の方が参加し開催しました。私用メールからでもアクセスできますという形にして、アンケート上では参加希望の方が30人くらいいて、実際の参加者はそれよりも少なかったですが、実際に生の声を聞かせていただいて、当事者にはなれないけど、今までわからなかったことが、わかることがたくさんあって、こういう機会はとても大事だなって思いました。この活動を通して、話せば話すほど、心豊かに優しくなっていくところが自分でもあったと思っています。
モデレーター:Cさんいかがでしょうか。
Cさん:まだ何かを成し遂げた事は残念ながらないですが、これまで社内の先輩方が進めてきた取り組みのおかげで、例えば「提出物で性別を書くところはLGBTQに配慮してやめようと思うんですが、何か問題はありますか」とか、建物を建て替える時に、「誰でもトイレの設置を考えられていますか?」と話をすると、「ちゃんと考えて進めていますよ」という返答があったりして、孤軍奮闘しているわけではないんだなというのはよく感じる場面があります。
ずっと会社で取り組みを進めてきたということが、当然あるからだと思いますが、みんな意識を持って、自分の業務に落とし込んで、こういう風にしたらもっと良くなるのではないかと考えて、相談や、行動に移していただけている話を聞いたりして、会社としてダイバーシティに取り組んでいると感じられる場面が、この半年でもあるので、とてもうれしかったです。
そしてこういった流れを止めてはいけないからこそ、私も担当としてしっかり発信を続けていくってことが大事だと思っています。
モデレーター:そうですね。確かに私もいろんな部署から相談を持ちかけられたり、何かしら返信が来ると、とてもうれしかったり、もちろん厳しい声ももちろんありますけど、それがすごくモチベーションになるなと感じているところです。ありがとうございます。Dさんいかがでしょうか。
Dさん:私も今のCさんの話につながるかなと思いますが、私の方から各職場や現場のダイバーシティ委員会とかでLGBTQの勉強会するので話をしてくださいと相談があったりして、お邪魔した際に、社員一人一人が自分たちに何ができるかということを考えてくれる、そういった社員が一人ずつ多くなってきてくれているということが、私自身の支えです。
また、その社員との交流が人材戦略部の社員と現場の一社員で、距離はすごく遠いんですけれども、チャットで話をするともう本当に友達のように接して話ができるっていうのが非常にありがたく私自身の力になっています。
あと1つ、昨年LGBTQに配慮し制服をリニューアルして、先日当事者の現場の社員は「新しい制服を選びましたよ」と喜んで話をしてくれたり、新設する設備については必ずLGBTQの社員がいることを前提に整備をすることを社内で取り決めをしたり、本当に少しずつですがLGBTQのことを考える社員が人材戦略部以外にも増えてきたことはうれしいです。
これが少しずつでも、役員幹部から現場社員まで同じ思いになってくれると本当にいいなと思っています。
突然爆発的に理解が進むことはなかなかないと思いますので、これからも努力を怠らずに、できることを少しずつコツコツと積み上げて、皆さんの心理的安全が確保できることを進めていきたいなと考えています。
モデレーター:ありがとうございます。Bさんいかがでしょうか。
Bさん:まず思い浮かんだのは、あの人が部署にいてくれるよねと。長いからですけど、何かあった時に必ず声をかけていただけるということが非常にありがたいと思っています。D&Iの目的等々からすると、私はD&Iは課題があるからはじめて取り組むといったものではない領域の一つなのだと常日頃思っていて、私たちのメンバーもそれを理解し、私に対して叱咤激励してくれる間柄ですけれども、課題があるからそこに対処していくというのは、非常に狭い意味でのD&Iなのだと思っています。
ただ、経営状況だとか社会のトレンド等が変わってくると、どうしてもリソースを配分するために優先順位をつける必要があります。そうした時にD&Iの優先順位、さらには多様性の中での優先順位を考えざるを得ない、そんな時を皆さまが直面されているのではないかと思っています。LGBTQに関して、相談事例がないんだから手を打つべきではないというご意見もあったりするのではと思っています。
こうしたときに、不安になった時点で、何か課題が発生した時点で、会社の風土、会社の職場環境も含めて、人間関係も良くないというアラームが発せられたのだと理解しましょうよ、と。そういう話を丁寧に意識啓発していく必要があると思っていて、これは役員であっても上司であっても、それから新しく入ってこられる仲間であっても、同じスタンスで接していくべきなんだなと思って、少し気を引き締めたところです。
これがなくなると、D&Iは極論を言うと仲良しクラブで非常に楽しそうにやっているね、なんて言われかねない、そんな分野でもあったりすると思っています。
私自身もいろいろな価値観の方と接する機会が非常に増えた5年間だなと思っていて、私が学生時代、そしてこの会社に入ってから、だんだん固まってきた私なりの価値観が時に誤っていて、すべてが合っていると思っている人が多いかもしれませんが、そうではなくて、時に誤り、時に共感ができ、時にぶつかり合うことが当たり前なんだと、そう思えるようになったのは、私の人生としては収穫で、これはこれからも続けていきたいと思っています。
モデレーター:皆さんお話いただき、ありがとうございました。
私自身も皆様からお話を伺って、ダイバーシティ担当と、最初に話を受けた時は本当に雲をつかむようなところはあったのですが、確かにそれだけ範囲が広い、とても社員一人一人の概念や、思いに関わるような大事な仕事だなと、今実務を経験して感じています。だからこそ、常にいろんな形で社員に対して発信をしたり、相談を受けたり、やりとりしたり、日々のコミュニケーションがすごく大切で、それがやりがいだなと感じています。
皆様ありがとうございました。それでは、これで覆面座談会Vol1を終了とさせていただきます。長い時間お時間いただき、ありがとうございました。
今回の座談会で皆さまからいただいた貴重なお話を、このコンテンツをご覧になられた各企業のご担当の方の今後の取り組みの参考にしていただき、さらに共に取り組みを進めていただけることを祈っております。