企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.2

対談/座談会・インタビュー

企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.2

企業でDEI(Diversity,Equity&Inclusion)を推進されているご担当の皆さまに、LGBTQに関する取り組みを進める中で、抱える課題や、悩みなど、日々感じ、考えていることを話していただいた覆面座談会です。今回の座談会は日本企業と外資系企業でLGBTQに関する取り組み推進されている皆さまにオンラインでお集まりいただき、開催しました。

<座談会参加者>
Aさん:担当歴 5年/金融業界/日本企業(社員数:1万人以上)
Bさん:担当歴 6年/金融業界/日本企業(社員数:1千人以下)
Cさん:担当歴 1年/製造業・化学工業業界/日本企業(社員数:1千人〜1万人)
Dさん:担当歴 1年/IT業界/外資系企業(社員数:1万人以上)
Eさん:担当歴:5年/IT業界/外資系企業(社員数:1千人〜1万人)
モデレーター:担当歴:5年/製造業・化学工業業界/外資系企業(社員数:1千人以下)


モデレーター:本日は覆面座談会にお集まりいただき、ありがとうございます。それでは、まずは皆様の会社でのLGBTQに関する取り組み状況含め自己紹介から順番にお願いしてもよろしいでしょうか。

 

Aさん:私は金融系の日本企業でダイバーシティ推進室の室長をしております。担当歴は5年となります。弊社のLGBTQに関する取り組みは、着任後すぐに始められたのではなく、もともと進めていた女性活躍推進から、障害者雇用など、多様な社員が活躍できる環境を整えていく中で、2018年になってようやく自社のウェブサイトにLGBTQの取り組みを発表するところから、取り組みがスタートしました。

 

まずは、トップから理解浸透させるところからスタートし、グループ会社を含めた経営層を対象に、外部の当事者の講師の方をお招きし、セミナー研修を実施し、その後全社員に対して研修を実施してきました。その後アライ活動としては、LGBTQのアライステッカーを研修を受けてアライ宣言された方にお配りし、手帳やパソコンに貼ってもらっています。また人事制度における対象家族の範囲を見直して、同性パートナーにも適用拡大をし、相談窓口の設置なども行ってきました。ファシリティーの整備は、元々あった多目的トイレを、誰もが利用しやすくなるように、誰でもトイレという名称に変更したり、採用の部分ではエントリーシートの欄に男性、女性だけでなく、その他の選択肢を設けて、実際にその他の選択肢を選択して、エントリーされる学生さんも増えてきています。あと自認する性に基づく通称名使用を開始し、社員証や名刺など、会社の中で使用する名前については変更できるようにしています。

また、制度が変わってきていますので、誰もが理解できるようにLGBTQフレンドリーハンドブックを制作し、イントラで誰もが見ることができるように進めています。しかし当社では、まだカミングアウトしている社員がおらず、制度を使っている社員はいない状況です。本日はよろしくお願いします。

 

Bさん:私は日本の金融系企業の人事グループでマネージャーをしております。当社ではダイバーシティ推進チームといったダイバーシティに特化した部門は特になくて、社内でダイバーシティに興味がある人が手を挙げて、ダイバーシティチームとして活動していて、チームには、営業、人事総務、システムなど様々な部門のメンバーが参加しています。社内の環境を良くしたいとか、LGBTQのイベント参加の検討や実行、ビジネス上のサービス拡充や利便性をどう高めるかなど、幅広く活動しています。

 

当社は比較的新しい会社で、設立当初から多様性尊重を意識し、2015年にビジネス上でのLGBTQへの取り組みを開始しました。従業員に対しては、2013年からLGBTQに関する研修を毎年継続して行っています。制度としては、結婚したことによって手当を払うなど、性別や家族形態に対応する制度はあまりないですが、風土としては、会社のイベントに婚姻関係に関わらずパートナーも参加するケースもあります。休暇は数種類の特別有給休暇がありますが、自身か家族が病気になったときに看病をする看護休暇は、婚姻関係や同居にかかわらず、人生を共に過ごしたい人と規定しています。
採用については当社指定の定型エントリーフォームは設けておらず、レジュメの性別欄のチェックを必須事項にせずエントリーを受け付けています。

 

Cさん:私は、化学工業関連の日本のメーカー企業にて働いております。去年の10月に人事部に異動し、DI担当となりました。経験が浅い中で恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

当社は、社風としてトップダウンが効きやすいところもあり、2017年に役員勉強会に当事者の方をお招きして、話をしていただいたのが会社での取り組みの始まりです。そこからセクシュアリティーに関する相談窓口と、本社だけになりますがジェンダーにかかわらず利用できるトイレを設置しました。教育として、全社員に対するeラーニングと、希望者の方を対象にロールプレイを通して学びを深めるというようなアライセミナーの場も提供しています。

 

制度として、同性パートナーシップ制度を制定したことで多くの制度は使えるようになりました。一方で、もしかしたらご家族にもカミングアウトされてない方がいらっしゃる可能性もあるかもしれないということで、一部、たとえば退職金規定などは対象になっていません。この制度を使っていただいている方はいますが、まだ申請できていない人もいると思っていて、今後はアライ活動の方をもう少しやっていきたいと思っています。ただ、今の当社には、有志の会がありません。アライ活動として人事部が開くイベントにみんなで参加する、アライステッカーを見えるように身近な持ち物に貼って意思表示する、などが主な活動で、アライ同士のコミュニケーションがないというのが現状です。これはLGBTQの取り組みに限らず、有志の活動自体がない会社なので、この文化の中での展開が悩ましいところです。

 

Dさん:私は外資系I T企業にてD&Iを担当しています。弊社においては取り組みの歴史は比較的歴史が長くて、約20年前から活動をしています。当時はコミュニティがあったわけではなく、ある社員の方のカミングアウトから、毎年啓蒙活動や研修等をスタートし、PRIDEマンスにカフェテリアにポスターを貼ったり、特別メニューを作ったりというところで、啓蒙活動を行っていました。そして社会とつながって社会全体を変えていく必要があると、企業などとのコラボレーションも含め、様々な社会との連携を重要視して、活動を行っています。

 

同性パートナー制度は、2016年、世田谷区や渋谷区が制度を導入した後、すぐに準備をして導入しました。実際に制度の利用者はいて、2012年頃から結婚祝い金はすでに同性パートナーでも支払いを始めていましたので、実体はあったものの、制度として本格化をしたのが同性パートナーシップとして2016年からというところです。また、近年トップのリーダーたちのコミットメントを重要視していて、社長直下の役員が全員アライとなって各部門で主導となって勉強会をするなど、社内で動いております。

 

Eさん:私は、外資系I T企業で働いていますが、人事担当ではなく、社員コミュニティのメンバーです。本職ではCSRを担当しています。当社では有志が手を挙げて集まって、人事や法務などと一緒に協力して活動しています。

人事施策はさまざま導入していますが、同性もしくは事実婚の人たちをドメスティックパートナーとして、可能な限り福利厚生を同じにしています。設計の思想としては差別をなくすというよりは、均等に機会を提供するという立場で、パートナー以外でも、例えば別姓を選ぶために事実婚状態にある方など、それぞれの事情で違う家族がいるだろうということで、同性であるかどうかに限定していません。

どんなことをどんな優先順位で進めてほしいかをコミュニティー内で当事者も含めてみんなで相談し、それを人事に伝えています。たとえば、LGBTQ関連の制度を入れる前に直属の上司たちが理解をしていないと申請もできないと当事者からのニーズがあり、部下を持つすべての管理職にロールプレイも含めたLGBTQ集合研修をし、その後に人事制度を導入しました。

 

モデレーター:本日はよろしくお願いします。私は、外資系企業で人事、ダイバーシティ担当者をしています。海外ではかなり前から活発に活動が行われている一方で、日本では2010年代半ばくらいまではなかなかLGBTQの取り組みは進まず、ダイバーシティと言ったら障害者や女性についての取り組みがメインでしたが、2010年代後半からLGBTQ関連も力を入れて取り組むようになりました。

 

まず最初に、トップマネジメント及び社員の理解促進のため、講師を招いていろんな形で研修を行うことから始め、そのような活動の中でカミングアウトする人が社内から出てきました。その人たちが中心となって当事者とアライの社員ネットワークの活動が始まり、パートナーシップ制度を導入しました。これは、同性パートナーということだけではなくて、事実婚も含めて、大半の人事関連の制度について法律婚と同等の適用を行うというものです。
そんな中で、悩みとしては、社員は忙しくてなかなかダイバーシティも何も考える余裕もないような中で、制度が整ってきたことや、グローバルレベルでの社員グループの活動など、追い風はある一方で、なかなかLGBTQ関連の動きが活性化しないということがあります。

 


 

Eさん:早速ですが、Bさんに質問なのですが、興味のある人が手を挙げて参加しているとおっしゃっていましたが、その人たちのモチベーションとか、メンバーを増やす取り組みとかあれば教えてもらえますか。

 

Bさん:全社向けに定期的にダイバーシティチームの活動を紹介して募集を行っています。ダイバーシティチームの活動は業務時間内に定例会議や取り組みをするので、上長の許可があれば、入りたい社員はいつでも歓迎しています。

実際に入って来てくださる方たちは、お客様に対してより良いサービスを提供したいとか、社会的に意義がある活動をしたいとか、大学生のときにLGBTQの研究をしていたとか、おそらく活動に関わっていることに対してモチベーションがあるのだと思います。

 

Eさん:上長の許可があったら、そういった業務外の活動をすることに、社内の文化的にも風土的にも抵抗感がないってことですか?

 

Bさん:そうですね。今はコロナ禍で在宅勤務が中心になっているので、リアルのイベントへの参加機会などが少なく活動の幅は狭くなっていますが、社内の風土醸成や活性化、コミュニケーション促進などの活動をすることに対しては、歓迎される風土があります。

最近も中途採用で入社した社員が、希望して入社間もなくダイバーシティチームに加わりました。

 

Dさん:ちなみに最近の若手の方ってダイバーシティ&インクルージョンや、SDGsに興味がある方が多くないですか。私もよくご連絡をいただいて、社外のコミュニティーで活動している方も多くいて、一年目で本業もまだ学んでいる時期ではあっても、やっぱりこういう方のパワーを活かして、インターンみたいな形で、一部お手伝いいただいたりしてパワーにできるといいですよね。

 

Eさん:うちの会社もDさんの会社と同じで、若手でD&Iに関心ある社員が多いと感じます。LGBTQコミュニティの活動で、社内LGBTQアンケートの結果をもとにデータ分析できる人が必要だと募集をしたら、学生時代にデータサイエンスを専攻した新卒一年目の社員が、今はまだ一年目なのでまだアサインメントとしてはそういう仕事をしていないけれど、ぜひ関心のあるD&Iの領域で自分のスキルを活かしたいと参加してくれました。業務ではまだまだ覚えることがいっぱいで、自分の自由にできる範囲は少ないけれど、関心のあることには業務時間外でも挑戦したいと手を挙げてくれる。ピンポイントで必要なことを伝えると、やりたい人が見つかることが多いです。

 

Dさん:ちなみにその社内でのアンケートは、全社員に対して行っているんですか?

 

Eさん:全社員に対してアンケートを送って無記名で回答してもらっています。年によって数値が変わるのですが、だいたい6~9%の社員が自分をセクシュアルマイノリティだと認識しているという結果が出ていて、これは日本で行われる各種LGBTQ調査の数字とほぼ一緒です。弊社でも、そして他のどの企業でも、どこにでも同じような割合でセクシュアルマイノリティを自認する社員が働いているのだろうと感じます。

このアンケートを始めた意図としては、クローゼットの社員がすごく多かったので、経営層と会話するときに、アメリカの話だろうみたいに言われたくなくて、数字の見える化をしたかったんですね。オープンにして働いている人は少なくても、この人数のためにやるんだということで、例えば予算とか、そういうことが進められたのかなと思いますね。

 

Dさん:確かにそうですね。大規模なLGBTQ調査の結果で実際に出ている数字を見て、数字があるだけで納得感がありますが、実際社内でそういう結果があるっていうのは実感につながりますよね。

 

Eさん:ただ難しいのは、そのアンケートに対して当事者からのネガティブな反応もあり、せっかく静かに暮らしているのに騒ぎ立てないでくれというコメントや、権利を獲得していくことは必要だと思うけど、みんなの関心が高まることで「あいつゲイかも」みたいに思われたら困るというコメントもあります。それはまだこの職場に安心感がないからだと思うんですけど、今そういう過渡期にあるのかなとも思ったりします。

 

モデレーター:私も当事者の社員から人事の私にはカミングアウトしているけれども、困ってないから、そっとしておいてほしいという声がありました。そういう当事者の声もちゃんと受け止めなきゃいけないと思いましたし、やみくもに増やせばいいわけではないと、ちょっと考えましたね。

 

Dさん:アライも知名度が上がって、人数が増えていったとしても、やっぱり当事者の方で一定数身近な人だけにカミングアウトしていて、別に特に困ってないと、わざわざアウトロールモデルとして、社内外向けにプレゼンをするのは抵抗がある方も多いので、そのあたりはまさに過渡期だなと感じています。

 

(次ページへつづく)

 

対談/座談会・インタビュー