LGBTQ当事者座談会『若手LGBTQ+社員のリアル』

対談/座談会・インタビュー

LGBTQ当事者座談会『若手LGBTQ+社員のリアル』

ここ5、6年の間で日本においても、企業のLGBTQダイバーシティ推進の気運は高まっています。『work with Pride』における企業の取り組みの評価や可視化、プライドハウス東京レガシーの設立など、LGBTQインクルージョンの機運が高まりつつあると感じる一方で、当事者がどういった制度や取り組みを求めているのかがわからなかったり、制度を作ったものの、利用する人がいなかったり、壁にぶつかっている企業も多いのではないでしょうか。
この座談会では、20代後半から30代前半のLGBTQ当事者社員が、日ごろどういったことを感じているのか、何に困っているのかなどを、「6つのテーマ+α」に沿って、率直な言葉で語り合いました。

<座談会参加者>
●Aさん(プロフェッショナルファーム)
30代/レズビアン
●Bさん(金融業界)
20代/Xジェンダー
●Cさん(コンサルティングファーム)
20代/ゲイ


【テーマ1】
■会社や私生活で、カミングアウトはしていますか?

 

Bさん:会社内やLGBTQに関する活動の場では、基本的にはカミングアウトしています。LGBTQのことをより多くの人に知ってもらい、自分事として考えてもらいたいからです。その一方で、家族や友達には、対応はまちまちです。カミングアウトするかどうかは、それによって自分が生きやすいか、過ごしやすいかが基準ですね。例えば、頻繁に会う人なのか、長い付き合いになる人なのかなどを考えて判断しています。家族では、父母、兄弟にはカミングアウトしていますが、祖父母には言っていません。

 

Aさん:会社ではかなりオープンにしていますが、ただ、わざわざ他の部門のあまり関わりのない人とかにカミングアウトしたりはしないです。一方、私生活では、例えば、付き合いの長い友達とか、相手を選んでいます。家族は、弟やいとこにはしていますが、親にはまだ言っていないです。

 

Cさん:LGBTQの活動の場面や職場ではオープンにしています。両親には、LGBTQの活動をしていることは伝えていますが、カミングアウトはしていないです。姉にはオープンで、今のパートナーも紹介しています。また、パートナーの母親と私は会っていて、パートナーと私の姉も面識があります。同居もしているので、何かあったときのことも考えて、そのようにしています。

 

Aさん:親にカミングアウトしていないことには、罪悪感を持っています。私の年齢になると、結婚するのが当たり前、みたいな感じでみられます。付き合っている相手がいること、同居していることは親に言っていて、なのに、どうして結婚しないの、なんで紹介してくれないのと言われ、対応に苦慮しています。

 


【テーマ2】

■社内外のLGBTQに対する制度や風土をどう感じていますか?

 

Aさん:パートナーと同居していると親には言っていますが、状況はもう少しややこしくて、私の彼女はオーストラリア国籍で、家族の事情で現在オーストラリアに戻っていて、そのうえコロナの関係でなかなか日本に戻って来られない状況です。例えば、各社、同性パートナー向けの制度はいろいろあると思いますが、それは同居や生計が一になっていることが前提で、私は現時点では使えません。そのことで困っているわけではないですが、私としては、二人の関係を認めてもらいたいです。

 

日本では、仕事中は私生活のことは話さないけど、飲み会などではけっこう話をしますよね。以前所属していたチームは、みんな世代が近くて、よくプライベートの話をしていました。「旦那さんの写真を見せて」とか、「週末はどうしてたの?」とか。カミングアウトしていなかったときは、彼氏がいると嘘をついたこともありました。そのとき、「写真を見せて?」と言われ、とっさに「私は写真を撮りたくないタイプの人間なんで」と言ってごまかしたり(苦笑)。そういうことがなくなっただけでも、カミングアウトしてよかったと思っています。

 

Cさん:社内に同性カップルでも使える制度があることは知っていますが、今のところ利用はしていません。また、パートナーシップ制度のある自治体に住んではいますが、中途半端にパートナーシップ制度を利用するくらいなら、結婚したいよね、とパートナーとは話しています。日本で同性婚が実現するまで、何年かかるかはわからないですが。

 

Bさん:私自身は、制度で困るというよりは、風土や文化で困ることが多いと感じています。例えば就活は、男/女ではっきりと分けられてしまうイベントです。大学時代は性別で分けられることがあまりなく自由に過ごせていましたが、就活を始めたとたんに化粧や女性用スーツを求められるなど、「女性」になることを求められ、とても辛かったです。逆に、就職してからは、あまり困っていることはありません。服装も基本的に自由ですし、社内風土的にも過ごしやすいです。Xジェンダーは色々な人を内包しているので、気になる部分が人によってかなり異なります。そのため、私は気にならなくても、他のXジェンダーの人だったら気になるかもしれないなという部分はあります。

 


【テーマ3】

■最近、直面した困りごとは?

 

Cさん:二人で家を借りるときですね。以前、会社の同期の同性の友人とルームシェアをしていたのですが、そのときもすごく困りましたし、そのあと、今のパートナーと同居することになり、そのときの家探しも困りました。男性二人だと、例えば、家を汚くするだとか、喧嘩して契約が解消されるリスクが高いだとか、人を呼んで騒ぐだとか、そういう理由で、男女や女性同士に比べ、大家さんが嫌がると不動産屋さんの担当の人に言われました。

 

Bさん:男性に対する、よくある偏見ですね。

 

Cさん:そうですね。どちらか一人で借りて、黙って同居したらどうですか、と言われたこともありました。

 

Bさん:私は恋愛感情がないのですが、できることなら一緒にいて居心地のいい友達と暮らしてみたいと思っています。しかし、誰かに恋愛感情を抱くセクシュアリティの友達が多いため、その恋愛関係のほうを優先してほしいと思うと一緒に住むのは難しく、寂しい気持ちになります。

 


【テーマ4】

■上下の世代との意識や認識の差を感じますか?

 

Cさん:下の世代の人たちをみると、情報が広がっているのか、リアリティがまた違うように思います。30〜40代の上の世代は、周りにいるのが弊社の人たちが多いこともあって、そこまで激しい拒否反応はなく、偏見が少しは薄らいでいるように感じています。

 

Aさん:私の出身国の中国では上の世代の親戚などは、LGBTQに対して無理解です。それだけでなく、女性に対しても、例えば、育児のために女性は家にいるのが当たり前、そんな考え方です。一方、同世代の友達や弟、妹などは、一般的な恋愛話と同じ感覚で自然に反応してくれます。また、世代の差だけでなく、地域や文化の差もあると思います。例えば、中国の友達にカミングアウトするときはけっこう勇気が必要ですが、イギリスやアメリカに住んでいるいとこや友人には言いやすいです。

 

Bさん:世代関係なく「差別をしてはいけない」という認識を持っている人はたくさんいると思います。しかし、LGBTQの当事者が「どこかにいる」で止まってしまっていて、「自分の隣や目の前にいる」という感覚があまりないなと感じています。教科書や、テレビ、インターネットの中の存在になってしまっていて、リアルな存在になっていないわけです。そうすると「自分は差別していない」「自分のまわりには当事者は存在しない」と思い込み、自分の言動に無自覚な状態のまま過ごしてしまい、結果的に差別につながってしまうこともあると思います。

私も昔、ゲイの人への偏見を持っていてそれに気づかないまま過ごしていました。しかし、友達がゲイであることをカミングアウトしてくれたことによって自分が偏見を持っていたこと気づくことができ、無意識のうちに差別をしていたのかもしれないと大きなショックを受けました。現実の世界では、いつも当事者が目に見える形で存在しているわけじゃないんですよね。

 

Aさん:私のまわりのアライの方々の話を聞くと、アライになったきっかけでいちばん多いのは、まわりに当事者がいて、その人を応援したい、助けたいという気持ちからだったりします。巷にあふれている偏見まみれの情報に影響され、ステレオタイプで一方的なイメージを持っていた人も、実際に当事者に会うと、「割と普通ですね」みたいなことを言って(笑)。

 

Bさん:当事者の存在を自分ごとに落とし込めるかどうかが大きいと思います。私がLGBTQの活動でカミングアウトしているのは、当事者の存在をリアルに知ってもらいたいというのもあります。

 

Cさん:社内外、自分も含めて当事者のリアルな声を聞きたいとよく言われます。でも、当事者といっても、名前を出せる人ばかりじゃない。個別の当事者がすべてを代表できるわけでもないので、そのあたりの兼ね合いは難しいと思います。

 

Aさん:当事者の声が分からない、リアリティが分からないとしても、善意をもって質問をしているかどうかは分かると思うんです。善意をもっての質問なら、私は怒らない。逆にウェルカムです。

 


【テーマ5】

■将来への不安は?

 

Cさん:パートナーとの関係も含めながら、これから先のライフコースをどうやって築いていくのかについては、すごく悩みます。将来、国の制度が整ったらできたら同性婚をしたいとは思っていますが、今はまだ過渡期といった状況ですよね。できることなら、子供を持ちたいという気持ちもあるのですが、では、どうやって実現させるのか、法律的にどうなのか。でも、「それも無理じゃない」というリアリティはあります。

 

Aさん:まずはキャリアの問題ですね。日本に来て今年で4年目ですが、その前はずっとシンガポールに住んでいて、英語もある程度できるので、オーストラリア国籍の彼女と一緒にオーストラリアに住むという選択肢もあるかなと、結婚もできますし。今後は、日本以外でのキャリアも視野に入れています。Cさんとは逆に、子供を持たない人生を考えていますが、自身の老後についてはものすごく心配しています。何かあったときに、例えば、大きな病気や怪我、最悪の場合、パートナーに先立たれたり。そうした場合に、面倒を見てくれる人、少なくとも病院に入れてくれる人がいるのか。結婚をしたとしても、離婚や死別の可能性もあり、そのときに一人になるのがとても怖いです。

 

Bさん:私は、あまり結婚は考えていません。一人で死んだとしても、まわりの友人たちが幸せに生きているならそれでいいと思っています。ただ、自分の身体の性別が原因でその友人たちに会えなくなったらつらいなと思います。例えば、身体的に男性の友達が結婚したら、身体が女性の私が会いに行くと、世間的には「浮気」を疑われてしまうかもしれません。もし自分の身体が男性だったら会いに行っても何も言われないと思うので、とても不思議だなと思います。この先だんだんと、会える人の選択肢が少なくなってしまうことを考えると悲しいですね。

 

Aさん:子供を持つと、女性の友達にも会うのが難しくなって、例えば、一緒に旅行とかも行けなくなってしまいますよね。

 

Bさん:そうですね。異性婚も同性婚も恋愛結婚のイメージが強いですが、恋愛感情の有無は関係なく、性別の縛りもなく、苗字が一緒でも違っていても良い、ただ一緒にいたい相手と生きていくためのサポートとしての結婚の形があってもいいのではと思います。そうすれば、私のような人もモヤモヤせずに結婚という選択肢を考えられるのになって。

 

Cさん:今のパートナーと話しているのは、収入や貯蓄と家事分担のこと。パートナーが拘束時間の長い仕事なので、時間的に余裕のある自分が家事をだいたいこなしているんですが、ちょっと負担を感じています。

 

Aさん:とてもリアルな話で、私もすごく感じています。私の彼女は、昔は全然家事とかをしてくれなくて、それでよく喧嘩になっていました。将来のための貯金とかについて、恐らく他の同世代の当事者よりも考えていると思います。例えば、将来、不動産物件を買うことになったときに、一緒にローンを組めないとしたら一人でローンを組まないといけない。では、どれくらい貯めたらいいか。そのために必要な収入はいくらか。あるいは、老後について考えると、もし、どちらかが働けなくなったら、年金はどうなるのか。心配は尽きません。

 


【テーマ6】

■各企業の人事担当の方に伝えたいことは?

 

Cさん:今は過渡期で、認識や一定の理解は広がっていて、社会の意識は変化していますが、その変化に追いつけていない企業もあるように感じています。アライの人も、当事者も、無関心な人もみんな、「LGBT」の言葉は知っていても理解が深まるところまでは進んでないと思います。

 

Aさん:私も人事部の所属なので、自身への反省も込めてですが、今すごく思っているのは、「制度」があればそれでいいと思わないことです。例えば、トランスジェンダーの方に対して、2018年4月から性別適合手術に健康保険が適用されるようになりましたが、ホルモン療法を受けていると混合診療となるため、保険が適用されなくなります。では、そういう人たちをどのようにサポートしていくのか。あるいは、コロナのパンデミックでリモートワークをする人が多くなっています。

その働き方はフレキシビリティーがあると人事の方は思われるかもしれないですが、例えば、私のような外国人の社員が母国に戻れないことに対して、どのようにサポートするのか。あるいは、私の身近に去年、起きたことなんですが、シンガポール在住の友達が去年、出産した直後に、中国に住む母親が癌と診断されて、しかもステージ4で、それにコロナもあって、中国に戻れなくて、結局、最期に立ち会うことができず、お母さんは亡くなられたんです。

そういうことはビジネスとは直接には関係ないけれど、その人は確実にパフォーマンスを発揮できなくなります。こういう人たちに、経済的なサポートは難しくても、メンタル的なサポートはできないものか。インターセクショナリティにも絡むことかもしれないですが、一人一人が抱えている問題は、今の社会においてはすごく複雑なので、ひとつの制度があれば全員が満足できるわけではないです。このことについては、私も含めて人事の皆さんに考えていただきたいと思います。

 

Bさん:このセクシュアリティの人ならこんなことで困りそうだから、こういう制度があるといいよねと、傾向によって対応できる部分もあると思いますが、それだけでは不十分だと思っています。カミングアウトをされていることが前提になってしまうのですが、当事者本人とコミュニケーションをとることも重要だと思います。

例えば「仕事をしていくにあたってどんなところで困りそうか」を聞き、その困りごとについてどこまで会社が対応できて、どこから本人が対応するのか、そのラインを事前にすり合わせできていると、安心して働けるかと思います。

 

Aさん:LGBTQ当事者だけではなく、例えば、障がい者でも、持っている障がいはみんな違って、その違いによって対応方法も全然異なります。でも、セクシュアリティをオープンにできる人もいれば、したくない人もいるので、こういうコミュニケーションは必要ですよね。

 

Bさん:LGBTQ当事者だけでなく、すべての社員が会社側と定期的にコミュニケーションできる機会があるといいですよね。

 

Aさん:そうですね。国の制度と足並みを揃える必要はないですし、足並みを揃えていればそれでいいとも思わないことです、国の制度の進捗は遅いですから。

 


【テーマ+α】

座談会オブザーバーからの質問

■採用の場面において、どんなことを意識しましたか?

 

Aさん:採用に関して、LGBTQと直接に関係ないかもしれないですが、「カルチャーフィット」を大事にしている会社が多いと感じています。でも、それが本当にインクルージョンなのでしょうか。ある会社のカルチャーにすごく合う人というのは、だいたい似たようなキャラクターです。そういう人ばかり採用することで、見落とされる有能な人材もいるように最近すごく思っています。

 

Cさん:実際に入社してみて、入社前の期待値とそれほどずれてなかったので、私はカルチャーの違いをあまり感じませんでした。カルチャーの違いを判断するために、カミングアウトへの反応は重視していました。人事担当者の反応はよくても、実際に現場に入ったら全然カルチャーが違うということも起こりうるとは思いますが、運が良かったのか、私はそういうことはありませんでした。

 

Bさん:東京レインボープライド(TRP)等への協賛企業の広がりなどを見ていると、LGBTQに対する関心は高まっているとは思います。しかし、LGBTQへの理解やインクルージョンがどのくらい浸透しているのかは、外から見ただけでは判断できません。単なる宣伝効果やイメージアップを狙って協賛を行っている可能性や、関心を持っているのは社内の一部の人だけという可能性もあるからです。

実際に「ダイバーシティを推進している企業に入社したが、社内での理解の差が激しく、差別的な発言をする役員・社員もいるため、辛い思いをしている」という話も時々聞きます。私は、選考の過程でカミングアウトをし、そのときの反応を見ることで社内への浸透度を判断していたので、入社後も期待値とのずれはあまりありませんでした。でも、カミングアウトしていない人の場合は、判断するのが難しいだろうなとは思います。

 

 

構成/山縣真矢

 

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