企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.2

対談/座談会・インタビュー

企業のDEI担当者による覆面座談会 Vol.2


 

モデレーター:先ほど、特に若い人が最近ダイバーシティとかSDGsに関心高いという話がありましたが、LGBTQの取り組み展開なども含めて、浸透の年代差みたいなものを感じることはありますか?私自身も、年配の方々は会社が世の中の動きに合わせて何かやっていると、他人事であまり関心がない人が多いと感じていて、そのあたりが今後本格的に取り組みを浸透させていく時の一つの壁かなという気がしています。そのあたりで何かご経験などありましたら、お聞かせいただけますでしょうか。

 

Bさん:当社の場合は、経営層はダイバシティーやLGBTQに理解がありますが、中途採用入社が大半を占めて、毎年一定数の社員が入社してきますので、様々な有識者を招いてLGBTQ研修を実施しています。自分には関係のない世界で、どうして会社がこのような研修をするのか理解できないとアンケートにコメントがある場合もあります。しかし、一橋大学のアウティングの報道がなされた際に、自分には関係ない世界だと思っていたけれど、もしかしたら自分が知らずにその加害者になる気がして、すごく怖くなったと直接伝えに来る社員もいるので、研修は今後も定期的に続ける予定です。

 

Eさん:先ほどの社内アンケートで、私は上司としてLGBTQかどうかを評価や昇進の観点に持ち込まないから、セクシュアリティを仕事の場で話す必要性を感じないというコメントがありました。6月のプライド月間にエグゼクティブと当事者社員との対話を3回に分けて行ったのですが、社長の回にそのトピックに入れました。本当に評価に関係しなかったとしても、みんながプライベートの話を楽しく雑談している時に、自分だけ本当の話ができない状態で、最高のパフォーマンスは出せるかとか、カミングアウトしなくても大丈夫だと思っていたけれど、毎回ウソをついているということが自分のパフォーマンスに影響していたかもしれないと後から気づいた話など当事者の声で話してもらうと、評価には関係しないと思っていた人にも、それだけじゃないのかなと気付いてもらえたかなと思いました。

 

今回社長が登壇したことで、普段だったらLGBTQセミナーになかなか参加しない社員も、社長も聞いているんだったら聞かなきゃと参加し、見に来る人が変わりました。そういうタイミングで当事者の社員から直接話してもらうことで、伝わったことも多いのではと感じます。

 

Aさん:私はあまり年代差があるという感じはないですが、最初の取り組みがトップ層からの研修で、とても好評だったんですね。私がそれを本当に実感したのは、会社の廊下ですれ違った役員の方に、この会社で研修を受けてきた中で一番良かったと声をかけてもらったり、薄い知識はあったけれども、研修でよく理解できたとか、自分が部門長としてしっかり組織に落としていかなければならないと実感したとか、たぶん心に響いて自分ごととして捉えることができたからだと思うのですが、自分ごとに考えられるトップクラスになってきたっていうのが、すごく良かったなと思っています。

 

ただ、先日就業時間後、企業で働く当事者をお招きし、会社のメンバーで作ったアライ部のメンバーとゲストが対談するオンラインイベントを実施したんですが、応募も実際の参加者も少なくて、このテーマに興味を持って、知っておかないといけない、自分が知ることで、もっと周りの人たちに働きやすい環境を整えていきたい、といった意識醸成を社内でどうしたらいいかというのが、今悩んでいるところです。

 

Cさん:当社では、採用や入社の時にLGBTQとかSDGsに興味がある質問をされる若い方が多いなという印象があります。一方で、年齢が上の方からは、やらなければならないからやっているような印象を受ける瞬間があります。

 

アライ研修に参加くださった年齢が上の方がいて、もちろんアライ研修に来てくださるだけで意識が高いとは思うのですが、それでも自分の周りに当事者はいないといったご発言をされる方もいました。それはいないということがどういう意味なのかまで、深く考えられてないのかもしれません。一般に公表されている調査結果でも、日本では、今、知識がある無関心層が多いと言われていると思いますが、当社もおそらく多くの方は、まだ知識の習得の段階にあるんだろうなと思っています。今後、じゃあどうしたら自分ごとにできるのかというと、やっぱり当事者の方から信頼されて事情を打ち明けてもらえるように個人が自分の態度を変えていくしかないと思っています。社外はもちろん、社内でも自分の周りに当事者の方がいるということが分かれば意識も変わると思います。

 

ただそこが課題で、自分の態度が変わらないと当事者の方から信頼をもらえない、当事者の方が当事者と言えなかったら自分の周囲に当事者がいるかわからず態度が変わらない、みたいな循環になっている職場もあるのではないかと思っています。

 

Eさん:話を聞いていて思ったんですが、女性活躍推進もそうですけど、皆さんほとんどが総論合意なんですよ。でもどこか他人事で、誰かがよきに計らってくれて、会社全体でうまくいっていたらウチには関係ないみたいな雰囲気の人が、たぶんどこの会社でもいるとは思うんですけど、皆さんどうですか。

 

Dさん:すごくよくわかります。女性活躍については、当社で女性の役員を増やすという直近の目標があるのですが、トップダウンで取らなきゃいけないんでしょという空気が流れたんですけど、いざ入ってみたら意外と社内の人がずっとできなかったことを、サラッとやってのけてポジティブな変化が起き、1年かけて変わったということがありました。LGBTQに関しては、部門や個人によって理解度合が異なります。新卒採用の中でも、会社がLGBTQに対してしっかりと活動をしているかをチェックしたという当事者以外の方の声も多く聞いています。

 

モデレーター:ダイバーシティの話は、先程おっしゃったように総論賛成で、自分の問題になると反対ということが多いのですが、それって要は上から言われて反対しようがないから受け入れているだけというところが1つの課題だと思っていて、私が研修で講師をやることもあり、いつも話しているのは、我々のビジネスに直接影響することなのだ、ということなんです。
どんどん人口も減って、労働人口が減っていて、今まで惹きつけられなかった人、採用できなかった人を、採用できるように、惹きつけられるようにしなければいけない。そういう時に、どのようなバックグラウンドの人でも惹きつけ、活動してもらえるような職場を作れないと、ビジネス自体がおぼつかなくなる、という流れで、多様性の確保の重要性を話しています。

実際にLGBTQに関してもPRIDE指標のゴールドをいただき、会社が積極的に取り組んでいることを知って、勇気づけられてこの会社を選びましたという人もいましたし、当事者でなくても、そのような会社の姿勢を知って、共感共鳴し、入社したと話していただける人もいて、LGBTQに関する会社の取り組みはプラスになっているんだなという気がしています。

 

もうひとつはダイバーシティって何で必要かっていうのは、色々な発想、色々なアイディアを持った人が集まるからこそ新しいものが生まれるということ。今までみたいに全員が同じ方向を向くのが得意な集団では、なかなか新しい発想が生まれず立ち行かなくなるということを強調しています。この話をすると、ハッと思うところがある社員が多いような気がします。なぜ必要なのかっていうところは、単にそれが正しいからとか、もしくはトップがメッセージ出しているから、ということではなく、身近な自分の問題として理解する工夫が必要なのかなって常日頃思っていますね。

 

Cさん:確かに当社も総論は賛成だけど、各論になってくると他人事になるところはあると思っています。その対策として、自分もなんらかのマイノリティーになりますよね、というとことを今年から発信し始めているところで、それによって自分ゴト化していくのを、試みています。これをどう受け取ってくださるかは、今後様子を見ていくところです。

 

Bさん:当社も一緒ですね。誰かは何らかのマイノリティーであり、それは育児や介護での時間的な制約とか、兼業兼学、や、病気の治療と就業の両立など、自身があてはまる可能性があります。みんなにとってのスタンダードって何?というようなところに辿りつけると、ダイバーシティを理解できるのかなと思っていて、いろんな切り口で、みんなで支え合って、シェアができる制度や風土を意識して取り組みをしています。

 


 

 

モデレーター:これからは、少し視点を変えて、ハラスメント防止法でSOGIハラに関する取り組みを強化していくことになりましたが、いわゆるSOGIハラ事案は実際に社内で起きたりしていますか。もしくはどんな取り組み防止策をとっておられるかなど、SOGIハラについてお話をうかがえればと思いますが、いかがでしょうか。

 

Aさん: 当社では人事異動があった後に新任のマネージャの研修があり、新任の支店長や副支店長、課長に対し実施しているんですが、その中でSOGIハラについてもきちんと説明をしていて、行動指針にも定められてもいるし、こういう発言をすると懲戒事案になりますということははっきり伝えています。

 

モデレーター:当社ですと、教育には力を入れているのですが、まだまだ意識が弱く、配慮にかけているかなという気がしていて、必ず年に数回1、2回は容姿や見た目に関することとか、まさにオカマなどといった差別的発言の話が出てきますね。

 

Eさん:何年か前にブラックフェイスをテレビ番組でやっていて、それは差別的な表現だと指摘された時に、戸惑った人も多くいましたよね。人権についての認識も時代とともに変わっていてアップデートしていかなくちゃいけないけれど、そこに追いついてなかったりする。意識が変わらないと、ただ禁止事項が増えるだけで、「これはダメって言われたから言わない」と思考停止してしまう。だけど心の奥底には無意識の差別があったり、古い価値観があったりすると、ふとした時に差別的な表現を無意識にしてしまう可能性があるのかなと思います。

 

Cさん:10年15年ぐらい前は「結婚しないの?」のようなプライベートな話が飲み会の席でされていましたが、最近はもうそういうことは聞かなくなって、常識が変わっているだろうなと思います。変化に気づいている人は態度を変えていると思いますが、やっぱりまだ変化に気付けてない人も一部ではいるだろうなと思いますし、それこそ同じような仲間でずっと一緒に働いていると、環境変化に気づかずに過ごせてしまうので、新しい風を入れなければならないだろうなと思います。

そういう意味では当社では定期的なローテーションもありますし、新しい人を入れているので、そこで対応できればという希望もあります。一方でそれが全てでも無く、風通しがよくない職場が無いとはいいきれないと認識していて、差別的発言に気付いたらお互いに指摘してね、と発信してはいますが、実際には言えるケースと言えないケースもあると思います。

 

モデレーター:今のお話を聞いたら、人事異動で新しい風を入れるということは、同じメンバーで発想がずっと固定化しないための有益な機会になっているんだなということを改めて思いました。当社ではあまり人事異動っていうものがなく、特に専門性高かったりすると異動がなく、ずっと同じ人みたいな可能性があるので、なるほどと思いました。

 

Cさん:あと、社外の方とお話するのはとても新鮮です。こうやって社外の方とお話しすると、社内の目では気づかずないうちに同じような視点になっているのがわかるので、もしかしたら社内の人もどんどん外に出して外のコミュニティーを見てきてくださいっていうのもひとつアリかもしれませんね。

 

Eさん:社歴が長い人同士がすごく仲良くて、ニックネームで呼び合うような部署に、中途採用で入った人が疎外感を覚えるというようなケースがあって、古い人同士のコミュニティには強烈な心理的安心感があって、彼らにとっては大変居心地がいいだろうけど、新陳代謝という点では、新しい人が来ても同じぐらい安心できる場所っていうのが職場にできないと、成長もできないし、すごく難しいなあと思います。

 

Bさん:私が最近考えさせられたのは、社員に対しては、基本的にさん付けで呼ぶようにしていますが、入社してきた社員に初対面で「はじめまして」と挨拶したら、「苗字にさん付けではなく、〇〇ちゃんで呼んでください」と言われて、そういうケースもあるんだと思って、自分も変わっていかなければならないと感じました。LGBTQの話とはちょっと違いますが。

 

Eさん:LGBTQでいうと英語圏では代名詞(He/She/They)を名乗りあう文化ができつつありますが、日本語は代名詞がない代わりに「さん」とか、「ちゃん」とか「君」とかで呼び分けるじゃないですか。以前は仲良くなったら「ちゃん」とか「君」と呼んでいたのですが、LGBTQの意識が高まってきて、本人から言われない限り、基本は全員「さん」で呼ぶように変えました。Xジェンダーやノンバイナリーの自認を持つ方も増えている感覚があり、ジェンダーニュートラルな言い方をしようと心がけています。

 

それから、女性だから男性だからっていう価値観が苦しい人もいて、例えば相手は褒めるつもりだったと思うのですが、「女性はコミュニケーションがうまいね」と言われた社員が「私は女性だからコミュニケーションうまいのではなくて、コミュニケーション下手な意識があったから一生懸命コミュニケーションが上手になるよう努力してきたのに、それを女性っていうカテゴリーで評価されたくない」と私たちに相談してきたことがありました。LGBTQだけじゃなくジェンダーに対して、とてもナチュラルに考えながら学生時代を過ごしてきた若手が増えてきているから、本当に私たちのコミュニケーションも変えていかないと、若い人たちが働きたいと思える会社ならないなと感じています。

 

Dさん:まさに昨日同じようなことがありました。基本的に若手の方からは男女を意識することが、ほぼなく過ごせているというフィードバックがこれまで多かったですが、社員全員の行動にかかっているということを改めて感じたケースがありました。というのも一人の社員の方から、とある部署での日常の会話の中で男女の区分けに違和感を感じて、今まで大学生のときは男性だから女性だからって感じたことなかったのに、会社になってそんなことを急に言われたことに違和感があったと話を聞きました。全世代のマインドチェンジや中途採用などの新しい方のご意見なども取り入れて、全員の意識を変えていくことは必要だなと感じています。

 

 

(次ページへつづく)

 

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